1994年世界保健機構WHOは疫学的調査の結果からピロリ菌を胃がんの確実な発癌因子に認定し、1998年にはピロリ菌感染動物モデルを用いた実験で胃がんの発生が報告されました。その後、ピロリ菌感染者と未感染者に対して定期的に内視鏡検査を行い追跡したところ、感染者からは胃がん発症を認めたのに対しピロリ菌未感染者からの胃がん発生はなかったこと、内視鏡的に早期胃癌を治療し治癒した患者を除菌した群と除菌しなかった群に分け経過観察すると、除菌した群からの2次胃がんの発症率は除菌しなかった群に比べ、約1/3であったこと、胃がん症例についてピロリ菌感染診断を行ったところピロリ菌未感染胃がんは0.66%であったことなど様々な研究から、現在では“胃がんの99%はピロリ菌感染に由来する”とされています。
日本における胃がんの死亡数は、内視鏡検査の増加による胃がんの早期発見が増えたことや早期治療の進歩により徐々に減少してはいますが、2017年のデータで年間約45,000人余りの方が亡くなっています(図1)。
図1 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」
一方胃がんにかかる人の数(罹患数)は高齢化の影響もあり増加傾向にあり、2014年のデータでは年間12,600人となっています(図2)。
図2 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」
2016年の全国がん登録の分析結果によると、都道府県別の人口10万人当たりの胃がんにかかる人数(罹患率)では、富山県は男女とも全国平均を上回り、男女合計では新潟、秋田、山形に続きワースト4位でした。また都道府県別の人口10万人当たりの胃がん死亡率は、東北の日本海側や北陸で高く、ピロリ菌感染に加え塩分の過剰摂取、喫煙などが多いことが原因として考えられています(図3)。
図3 国立がん研究センターがん情報サービス「がんの統計 ‘16」
ピロリ菌の年代別感染率をみると、1974年には40歳以上で約8割の方が感染していましたが、2014年では各年代とも徐々に減少してきています(図4)。
図4 厚生労働省「ヘリコバクターピロリ菌除菌の保険適用による胃がん減少効果について」
胃がん検診を受けましょう
2000年に胃・十二指腸潰瘍で保険適用になってから毎年50~60万人の方が除菌していましたが、2013年に慢性胃炎で保険適用になったことで2013年からの3年間で約500万人が除菌したといわれており、合計でざっと1,500万人くらいが除菌した計算になります。現在ピロリ菌感染者は3,500万人と推定されていますのでまだ未除菌の方がたくさんいる可能性があります(図5)。
図5 厚生労働省「ヘリコバクターピロリ菌除菌の保険適用による胃がん減少効果について」(2013年に慢性胃炎でも除菌が保険適用となった)
全国の40歳から69歳までの胃がん検診の受診率をみますと男女とも年々増加していますが5割に達していません。都道府県別胃がん検診受診率では富山県もやはり5割に達していません(図6)。
図6 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」
当院では胃内視鏡検査を年間約5000件行っており、毎年20件程度の胃がんが発見されています(当院で発見される胃がんのほとんどは胃内視鏡検査で見つかっています)。また2013年よりピロリ菌感染が確認された方には除菌治療を積極的にお勧めしています。ぜひ内視鏡検査による胃がん検診を受けましょう(図7)。
図7 滑川健康管理センターでの内視鏡検査実施人数及び、胃癌発見数
この内容は2019年9月28日 なめりかわ市民健康フォーラムで講演した内容を一部改変して掲載しています。
滑川健康管理センター
健康管理部長
八木 治雄