ピロリ菌のおはなし 第2回「除菌後胃がん」
ピロリ菌に感染すると胃酸を分泌する細胞などが破壊され胃の粘膜が薄くなる「萎縮」が起ります。萎縮は胃の出口側である幽門前庭部より始まり、ピロリ菌感染を放置すれば胃全体に広がっていきます(図1)。萎縮が胃の入り口である噴門に及ばない状態を「closed typeの萎縮」、噴門を超えた状態を「open typeの萎縮」と呼び、萎縮が高度になるほど胃がんのリスクが高まります。また、萎縮が高度になると、胃の粘膜に腸の粘膜を作る細胞があらわれる「腸上皮化生」が生じます(図2)。これは遺伝子レベルの異常により、胃の細胞が消化管のいろいろな細胞を作る能力をもつ幹細胞に一度リセットされ、その後に腸の細胞になれる異常な能力を持つとともに、容易にがん化しやすい性質を獲得します。
図1 萎縮の範囲と胃がんの相対危険度
図2 腸上皮化生とがん化リスク
当センターにおける令和2年度の内視鏡胃がん検診の胃がん発見数は、コロナ禍で内視鏡件数が例年より約700件減少したにもかかわらず、27例とほぼ例年通りの発見数でした。
発見された胃がんの平均年齢は76.3歳ですべて60歳以上でした。特に70代が多く、男性が女性の2倍以上でした(図3)。発見された胃がんのうち、除菌したにもかかわらず胃がんが見つかった「除菌後胃がん」が17例あり、「ピロリ菌未感染の胃がん」も3例ありました(図4)。
図3 当センターで内視鏡検査で発見された胃がん
図4 令和2年度の内視鏡胃がん検診で発見された胃がんの特徴
除菌後胃がんの除菌成功後から胃がん発見までの期間と萎縮の程度との関係をみると、76%が10年以内に発見されており、特に5年以内が40%と多く、全例open typeの萎縮でした。また除菌後10年を超える症例も4例あり、3例は80代以上でした(図5)。
図5 除菌成功後から発見までの期間と萎縮の程度
除菌をすれば胃がんのリスクは低下しますが決してゼロになるわけではありません。特に除菌時すでに高度の萎縮と診断された場合は、少なくとも5年間は内視鏡胃がん検診を続けることが望ましく、また高齢であること自体発がんのリスクが高いためピロリ菌除菌後も定期的な胃がん検診を続けることが望ましいと考えられます(図6)。
図6 除菌後も定期的に内視鏡検査を受けましょう